前鋸筋と言えば…

胸郭に付いてるノコギリみたいな筋肉でしょ!?とか

腕で押したりするときに働く筋肉でしょ!?とか

前鋸筋のイメージと言えば、大体このようなことを思い出す方が多いのではないでしょうか。

そんな前鋸筋ですが、肩甲骨に付着しているため肩関節の運動に影響を及ぼす重要な筋肉の一つです。

そこで今回は前鋸筋の基礎的な解剖学の復習からストレッチ方法、そして臨床で役立つ3つの特徴について解説していきたいと思います。

是非これを読んで前鋸筋に対する治療に生かしてほしいと思います。

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前鋸筋の解剖

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画像引用(一部改変):Anatomography

前鋸筋(serratus anterior)
起始 第1~8,9肋骨および第1,2肋骨間の腱弓
停止 肩甲骨上角、内側縁、下角
作用 肩甲骨を前外側方へ引き、胸郭を圧迫する
肩甲骨上方回旋、外転
肩甲骨固定で肋骨を外上方へ引く
神経支配 長胸神経(C5~C7)
トリガーポイント 第5、6肋骨の起始部付近
関連痛 トリガーポイント付近の胸郭側面
上肢内側、手掌面と第4,5指
関連臓器 心臓

 

前鋸筋のストレッチ

※後日、掲載いたします。

 

前鋸筋の特徴

特徴1 菱形筋との関係

ダウンロード (60)

画像引用(一部改変):Anatomography

前鋸筋と菱形筋の主な作用を見比べてみると…

・前鋸筋 ⇒ 肩甲骨上方回旋、外転

・菱形筋 ⇒ 肩甲骨下方回旋、内転

こうやって見ると全く反対の作用、つまり拮抗筋であることが分かります。

しかしこの前鋸筋と菱形筋(肩甲挙筋を含め)は線維同士の繋がりがあるとされています。

そして先ほどは拮抗する作用のみ解説しましたが、実は両筋は…

肩甲骨を胸郭へと固定する、押し付ける方向へ働く共同筋でもあります。

相反する拮抗する部分とお互いに共同する部分を持ち合わせる関係であるということです。

要するに…

肩甲骨面での動きは拮抗していて、肩甲骨軸の動きは共同しているということ。

これは以前…【前鋸筋の動きを考慮したTippingという評価方法】というページでも紹介している内容になってます。

そしてこの動きをどう評価するか、肩甲骨の柔軟性を評価するTippingという方法も紹介しています。

是非参考にされてみてください。

特徴2 筋束ごとの違い

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画像引用(一部改変):Anatomography

少しタイトルの付け方に誇張があるかもしれませんが、ここではざっくりと解説していきます。

前鋸筋は筋束がおよそ10~11束に分類されていると言われています。

しかしこの筋束にはいくつかの違いがあります。

まず1つ目…触診できるかできないかです。

・前鋸筋上部筋束 ⇒ 触診困難

・前鋸筋下部筋束 ⇒ 触診可能

このような状態により、治療対象は大体が下部筋束へとフォーカスが当てられています

先ほどのリンク先にも記載されていますが、その下部筋束は外腹斜筋とも連結しており、肩甲骨-体幹を結ぶ重要な役割を担ってます。

もちろん下部筋束の柔軟性低下が肩甲骨下方回旋や内転、それ以外にも上肢拳上の制限因子になりえることが十分に考えられます。

 

そして2つ目…他の筋肉との関係についてです。

先ほども外腹斜筋との繋がり、そして特徴1では菱形筋・肩甲挙筋との筋連結があることをお伝えしましたが、前鋸筋には他にも周りを多くの筋肉で覆われています。

・前鋸筋上部筋束 ⇒ 鎖骨下筋・胸筋群・肩甲下筋

・前鋸筋下部筋束 ⇒ 広背筋

先にお伝えしておくとこれらの筋は外腹斜筋や菱形筋とは違い、明確な筋連結はありません

前鋸筋を中心にこれらの筋肉が覆っているような形になっているということです

これにより前鋸筋は外力を直接受けることはありません。

しかし周りの筋肉からの影響(筋スパズムや線維化)によって機能不全を起こす可能性は考えられます。

また胸郭について簡単な説明を加えれば、関節の数が身体内でも最も多いということ。

胸郭だけでおよそ150近くの関節があるとされている。

そのため前鋸筋の機能不全はこのようなたくさんの関節をもつ胸郭の運動にも必ず影響を与える

なかなか胸郭に対して治療を行わない方でも前鋸筋との関係、そして多くの関節があるということだけは覚えておいてもらいたいと思います。

特徴3 前鋸筋麻痺と言えば…

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画像引用(一部改変):Anatomography

リハビリ専門職の方であれば、ご存知のように知っている内容ですが、前鋸筋麻痺と言えば…

【翼状肩甲】ですよね。

翼状肩甲とは…肩甲骨を胸郭に引き付ける役割の前鋸筋が麻痺を起こし、筋力低下することで肩甲骨内側縁が浮き上がった状態になることを指します。

この状態になると肩甲骨の運動はおろか上肢の運動にも影響を及ぼします。

全く拳上できなくなるわけではありませんが、90°以上の拳上はまず無理だと言われています。

しかしご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが…

・翼状肩甲 = 前鋸筋麻痺

だけではないんです!!

もちろん前鋸筋麻痺は翼状肩甲を引き起こします。

しかし他にも翼状肩甲を引き起こす原因があります。それは…

【三角筋拘縮】です。

あまり馴染みのない名前かもしれませんが、筋肉内注射などを繰り返すことで筋肉が損傷し、瘢痕化した状態が起こることで三角筋(特に中部)が短縮し、拘縮を起こしている状態のことを言います。

そのため、肩関節は下垂時も外転位となり、腕を体側に付けることができません。

この時に肩甲骨が上肢についていき、下方回旋することで肩甲骨内側が浮き上がって見える、要するに【翼状肩甲】の状態になります。

症状がひどい場合にはope適応になることもあるようです。

しかし【翼状肩甲】とあればまず前鋸筋麻痺を疑うのが一般的です。

ですがその【翼状肩甲】の原因の一つに”三角筋拘縮”もあることは知っておいてほしいと思います。

 

まとめ

特徴1 前鋸筋・菱形筋は拮抗筋であり共同筋でもある
特徴2 頭側と尾側では関係する筋肉に違いがある
特徴3 前鋸筋麻痺と言えば翼状肩甲と三角筋拘縮

 

いかがだったでしょうか。

前鋸筋と言ってもなかなか治療対象にしている方は多くないかと思います。

しかしもう一度前鋸筋の特徴を見直すことで色々な選択肢が広がってきます。

是非この内容があなたの治療に生かされればと思います。

今回も最後までご覧いただきまして本当にありがとうございました。