短母指伸筋と言えば…
ん~名前からみると母指の伸展には関与してそう!とか
…それ以上は出てきません…
短母指伸筋についていきなり聞かれても何にも答えられないのが普通だと思います。
確かに短母指伸筋を単体でみることは少ないかもしれません。
しかし他の筋肉との繋がりなどでみていくと結構深いところまで知ることができます。
そこで今回は短母指伸筋の基礎的な解剖学の復習からストレッチ方法、そして臨床で役立つ3つの特徴について解説していきます。
是非これを読んで短母指伸筋の治療に生かしてください。
見出し
短母指伸筋の解剖
画像引用(一部改変):Anatomography
短母指伸筋(extensor policis longus) | |
---|---|
起始 | 前腕骨間膜、橈骨 |
停止 | 母指背側基節骨底 |
作用 | 母指基節の伸展、母指外転 |
神経支配 | 橈骨神経(C6~8) |
短母指伸筋のストレッチ
※後日、掲載いたします。
短母指伸筋の特徴
特徴1 ドゥ・ケルバン病との関係
画像引用(一部改変):Anatomography
以前、【長母指外転筋】のページでご紹介しました”ドゥ・ケルバン病との関係”
”ドゥ・ケルバン病”、皆さんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
この”ドゥ・ケルバン病”と短母指伸筋との関係について解説していきます。
その前に後述しますが、短母指伸筋と長母指外転筋。
この2つの筋肉はとても密接しており、関係が深いことを伝えておきます。
では”ドゥ・ケルバン病”と短母指伸筋との関係について早速解説していきたいと思います。
まずドゥ・ケルバン病とは…
先ほど出てきた短母指伸筋と長母指外転筋の過度な使い過ぎ・オーバーワークに加え、伸張ストレスなど様々な要因によって腱鞘内外でメカニカルストレスがかかり続けることによって疼痛・炎症を引き起こすような病態になります。
一般的には母指の”腱鞘炎”と言えば伝わりやすいでしょうか。
そんな”ドゥ・ケルバン病”を判断するテストが…
フィンケルシュタイン(Finkelstein)テストです。
このテストの方法は…
痛みのある母指を他の4指で包み込むように握ります。
その後、痛みのある母指の背側を伸ばすように手関節を尺屈させます。
すると短母指伸筋と長母指外転筋が伸張されるような形になるため、これで疼痛が発生すれば”ドゥ・ケルバン病”が陽性と判断されるわけです。
では次に一般的な”ドゥ・ケルバン病”の治療法について解説します。
・保存療法 ⇒ 短母指伸筋(長母指外転筋)の過度な使い方の是正(安静にする)、リハビリテーションや湿布・ステロイド注射など…
・手術療法 ⇒ 腱鞘切開
一般的にはこのような感じになります。
リハビリテーションで行われることは、多くが疼痛のある部位(短母指伸筋・長母指外転筋)の治療からそれに付随し、関係する部位の治療がなされるのではないでしょうか。
ただこれだけ広い意味合いを持って伝えるのは、それぞれの症例によって治療の幅が大きいと思うからです。
ひとまず短母指伸筋が”ドゥ・ケルバン病”の原因の一つであるということをしっかりと理解しておいてください。
特徴2 短母指伸筋が通過する区画
画像引用(一部改変):Anatomography
さてこれも短母指伸筋と長母指外転筋が関係する特徴になります。
手関節や足関節には屈筋や伸筋の腱を押さえ、浮き上がらないようにまた急激な腱走行の変化に対応するように”支帯”というものが存在します。
今回のメインである短母指伸筋も手関節の背側を通るため、手関節の”伸筋支帯”の下を通過します。
そんな手関節の”伸筋支帯”を通る腱鞘は6つ、6区画が存在します。
その6区画を順番(母指 ⇒ 小指)にあげていきます。
・第1区画 ⇒ 短母指伸筋、長母指外転筋
・第2区画 ⇒ 短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋
・第3区画 ⇒ 長母指伸筋
・第4区画 ⇒ 総指伸筋、示指伸筋
・第5区画 ⇒ 小指伸筋
・第6区画 ⇒ 尺側手根伸筋
ここで重要なのは…第1区画でしょう。
この第1区画を形成する短母指伸筋と長母指外転筋は先ほど【特徴1】でも出てきたように”ドゥ・ケルバン病”を引き起こす要因になります。
というよりこの場所が”ドゥ・ケルバン病”を引き起こし、疼痛・炎症が出現する場所になります。
この伸筋支帯の下を通過する腱鞘が問題になるわけです。
短母指伸筋と長母指外転が通過するこの第1区画が”ドゥ・ケルバン病”と密接な関係にあることをしっかりと覚えておいてください。
特徴3 解剖学的嗅ぎタバコ窩との関係
”解剖学的嗅ぎタバコ窩”、この言葉は一度くらい耳にしたことあるのではないでしょうか。
別名を”スナフ・ボックス”と言い、昔はこの場所に火を使わずに香りを楽しむタバコをしまっておく場所としてこの名が付けられたようです。
そんな”解剖学的嗅ぎタバコ窩”の形成に関与しているのが短母指伸筋になります。
この”解剖学的嗅ぎタバコ窩”について知っておいてほしいことが2つあります。
それは…
①解剖学上の指標・ランドマークになる
②舟状骨骨折と関係がある
この2点です。それぞれ解説していきます。
まず①解剖学上の指標・ランドマークになるということに関して解説していきます。
この”解剖学的嗅ぎタバコ窩”の構成は…
・内側 ⇒ 短母指伸筋腱
・外側 ⇒ 長母指伸筋腱
・近位 ⇒ 橈骨茎状突起
・遠位 ⇒ 第1中手骨基部
これらが構成しています。
そしてこれらがそのまま触診する時などの指標やランドマークになってくれます。
そのため”解剖学的嗅ぎタバコ窩”の構成がどうなっているかを覚えていると触診する際にも簡単に探すことが出来るので是非、参考にしてください。
次に②舟状骨骨折との関係についてです。
これにはまず知るべき重要な特徴があります。
それは…
”解剖学的嗅ぎタバコ窩”の浅層に橈骨動脈が走行し、その直下に舟状骨があるということ。
この舟状骨、骨折すると厄介なんです。
それは無腐性壊死を起こしやすいということ。
簡単に言うと…
舟状骨の近位は血液供給されていないからです。
中央から遠位にかけては血液供給されていますが、近位はそれがないんです。
そのため骨折しても修復するために必要な血液が不足しているため無腐性壊死を起こしやすいと言われています。
そんな舟状骨骨折はレントゲンでも発見が難しいとされているため、舟状骨を中心とした痛みが長引く場合は注意した方がいいです。
多くの場合は大体6~12週で骨癒合が得られることも知っておいた方がよいと思います。
是非、短母指伸筋が”解剖学的嗅ぎタバコ窩”を構成することと2つの特徴を合わせて押さえておいてほしいと思います。
まとめ
特徴1 ”ドゥ・ケルバン病”を引き起こす一因
特徴2 長母指外転筋とともに第1区画に存在する
特徴3 ”解剖学的嗅ぎタバコ窩”と密接な関係にある
いかがだったでしょうか。
短母指伸筋を単体でみることはあまりないかもしれませんが、長母指外転筋や長母指伸筋と合わせてみるととても重要な筋肉であることがわかると思います。
是非、今後の臨床に生かしてほしいと思います。
今回も最後までご覧いただきまして本当にありがとうございました。
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