長母指屈筋と言えば…
母指の屈筋であるということは何となくわかるけど、それ以外の特徴は?と聞かれてもなかなか思い浮かばない…
こんな方がほとんどだと思います。
しかし長母指屈筋も深く知っていけば臨床で役立つような情報がたくさん眠っています。
そこで今回は長母指屈筋の基礎的な解剖学の復習からストレッチ方法、そして臨床で役立つ3つの特徴について解説していきます。
是非これを読んで今後のハンド治療に生かしてほしいと思います。
見出し
長母指屈筋の解剖
画像引用(一部改変):Anatomography
長母指屈筋(flexor pollicis longus) | |
---|---|
起始 | 橈骨前面、前腕骨間膜 |
停止 | 掌側面の母指末節骨底 |
作用 | 母指屈曲 |
神経支配 | 正中神経・前骨間神経(C6~8) |
トリガーポイント | 前腕遠位1/3橈側の筋腹付近 |
関連痛 | 母指腹側付近 |
長母指屈筋のストレッチ
※後日、掲載いたします。
長母指屈筋の特徴
特徴1 手根管との関係
画像引用(一部改変):Anatomography
皆さん、手根管と言えば”手根管症候群”を思い出し、手の痺れやTinel signなどがよく知られていると思います。
そんな手根管ですが、その内容物はご存知ですか?
もちろん正中神経は通ります。
ではそれ以外の筋肉、いくつあって何筋の腱が通るか知っていますか?
実は…3つの筋肉の腱しか通っていないんです!
その3つの筋肉とは…(勘の良い人は分かっていると思いますが…)
・長母指屈筋腱
・浅指屈筋腱
・深指屈筋腱
この3つの筋肉の腱なんです。
でも何だか少なく感じますよね?
実は…浅指屈筋と深指屈筋は手根管を通る際にすでに分岐された状態で通過します。
簡単に言うと…
元になっている筋肉は3つで変わりないですが、手根管を通る際は…
・長母指屈筋腱 ⇒ 1本
・浅指屈筋腱 ⇒ 4本
・深指屈筋腱 ⇒ 4本
だから腱自体は9本通っていることになります。
ちょっとスッキリしましたか?
というか、何か今回の”長母指屈筋”は結構重要そうな感じがしてきませんか?
ちなみに手根管の屈筋支帯下を通過する際には、腱鞘に包まれた状態で通過していくのですが…
浅指屈筋腱・深指屈筋腱はそれぞれ4本の腱がまとめて腱鞘によって包まれていますが、長母指屈筋腱は…
単独で腱鞘に覆われて屈筋支帯下を通過する特徴もあります。
以前もお話ししましたが、”手根管”にはまだまだ解説しないといけないことがたくさんあります。
今回は”長母指屈筋”の解説のため、またの機会に”手根管”についての解説が出来ればと思っています。
とりあえず、今回のところは…
手根管内に9本の腱が通過しており、そのうちの一つは長母指屈筋腱であるということを理解しておいてください。
特徴2 前骨間神経麻痺との関係
画像引用(一部改変):Anatomography
長母指屈筋の筋力低下と言えば、”前骨間神経麻痺”が思い浮かぶ方もいらっしゃるかもしれません。
前骨間神経麻痺についてあまり覚えていない方のために少し復習も含めて解説すると…
前骨間神経麻痺 = 正中神経の絞扼
その絞扼部位は…
浅指屈筋腱弓部です。
ちなみによく間違われやすい正中神経絞扼の”円回内筋症候群”とは3つほど大きな違いがります。
①絞扼部位による名称の違いです。
・前骨間神経麻痺 ⇒ 浅指屈筋腱弓(浅指屈筋の2頭間)
・円回内筋症候群 ⇒ 円回内筋2頭間
当たり前かもしれませんが、絞扼される部位でその名称が異なります。
次に②運動障害についてです。
これが今回の長母指屈筋と一番関係が深いものになります。
・前骨間神経麻痺 ⇒ 涙のしずくサイン・perfect 0 sign不可
・円回内筋症候群 ⇒ 祈祷手(1~3指屈曲不可)
ちなみに前骨間神経麻痺のこの運動障害は…
長母指屈筋と深指屈筋の麻痺により母指と示指での正円形が作れない状態の事を指しています。
最後③感覚障害の有無についてです。
・前骨間神経麻痺 ⇒ 感覚障害なし
・円回内筋症候群 ⇒ 手掌母指から第4指縦半分と手背第1~4指尖
前骨間神経麻痺に関しては浅指屈筋腱弓を運動神経しか通過せず、感覚神経が通過しないためとてもわかりやすい違いになります。
今回のメインである長母指屈筋は母指屈曲を作用としているのですが、正中神経を浅指屈筋腱弓で絞扼されることによって母指屈曲が出来なくなり、涙のしずくサインやperfect 0 sign不可という現象が起こることを知っておいてください。
特徴3 他筋肉との関係
画像引用(一部改変):Anatomography
長母指屈筋は先ほど紹介したように深指屈筋との関係が深いです。
それはこの両筋間を前骨間神経と前骨間動静脈が通過することも関係しています。
正中神経絞扼による”前骨間神経麻痺”は浅指屈筋腱弓で起きますが、当たり前のようにその神経は長母指屈筋と深指屈筋まで伸びており、その横を前骨間動静脈も伴走するような形になっています。
また他にも骨間膜レベルにおいてこれらの筋肉とも繋がりがあります。
・回外筋
・示指伸筋
・短母指伸筋
・長母指伸筋
・長母指外転筋
これらを見てわかるように骨間膜を介して屈筋群である長母指屈筋が伸筋群との繋がりが多いことが分かります。
骨間膜というのは拮抗筋である筋肉同士にも影響を及ぼしていることが分かります。
余談にはなりますが、長母指屈筋の深部には正中神経と尺骨神経の交わる場所があり、ここを境に正中神経支配と尺骨神経支配が分かれているようです。
是非、参考まで覚えておいてください。
まとめ
特徴1 手根管内を通過する9本の腱のうちの1本
特徴2 長母指屈筋の筋力低下は前骨間神経麻痺も関与
特徴3 屈筋でありながら伸筋との繋がりが多い
いかがだったでしょうか。
こうやってみると長母指屈筋はなかなか臨床的にも意味深い筋肉であることがわかったのではないでしょうか。
是非、臨床の場でも生かしていただきたいと思います。
今回も最後までご覧いただき本当にありがとうございました。
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