尺側手根屈筋と言えば…

尺側っていうくらいだから尺屈筋かな?とか

屈筋とも書いてあるから掌屈筋でもあったかな?とか

何とも曖昧な知識で覚えている方も多いのではないかと思います。

しかし復習したり、調べ込んでいけば何か思い出したり、新たな発見があったりするものです。

それは尺側手根屈筋でも言えることです。

そこで今回は尺側手根屈筋の基礎的な解剖学の復習からストレッチ方法、そして臨床で役立つ3つの特徴について解説していきたいます。

是非これを読んで尺側手根屈筋を治療の対象にしていただきたいと思います。

SPONSORD LINK

尺側手根屈筋の解剖

page1541

画像引用(一部改変):Anatomography

尺側手根屈筋(flexor carpi ulnaris)
起始 上腕頭:上腕骨内側上顆
尺骨頭:肘頭、前腕筋膜、尺骨中部までの後縁
停止 豆状骨、有鈎骨、第5中手骨底
作用 手関節尺屈、掌屈
神経支配 尺骨神経(C7~Th1)
トリガーポイント 前腕中央の尺側縁にある筋腹
関連痛 前腕尺側遠位から手関節を通り、小指球付近まで存在

 

尺側手根屈筋のストレッチ

※後日、掲載いたします。

 

尺側手根屈筋の特徴

特徴1 前腕屈筋群内、唯一の尺骨神経支配

ダウンロード (40)

画像引用(一部改変):Anatomography

尺側手根屈筋と言えば、まずはこれでしょう!

前腕屈筋群内で唯一、尺骨神経支配であるということ!!

(題目と同じこと言いました…)

この言葉通り、尺側手根屈筋だけが屈筋群において尺骨神経に支配されているんです。

他は大体、正中神経に支配されています。

 

では何で尺側手根屈筋だけが尺骨神経支配なのか…

それは尺骨神経が通るルートが関係しています。

【PTが手指まで?尺骨神経の理解】

このページでも紹介していますが、簡単に復習したいと思います。

尺骨神経は腕神経叢の内側神経束からスタートします。

⇒ 上腕部後内側を下向

⇒ 上腕内側筋間中隔後方を下向

⇒ 浅指屈筋腱下に入り、上腕骨内側上顆後面の尺骨神経溝を通過

⇒ その後、弓状靭帯の背側を通り…

⇒ 尺側手根屈筋上腕頭と尺骨頭で形成される腱弓を通過します。

その後…

とまだ末梢の方へと走っていきます。

ここで重要なのが尺側手根屈筋上腕頭と尺骨頭で形成される腱弓を尺骨神経が通過するということ。

この場所は薄い膜状のトンネルの様な場所でFibous bandとも言われています。

ま、単純に考えても尺側手根屈筋が作るトンネルを通過するのだから神経支配していても不思議ではありませんよね。

そしてこの場所で絞扼され起こる症状の事を”肘部管症候群”と言います。

この”肘部管症候群”は様々な要因があると言われていますが、骨折や脱臼、ガングリオンなどの要因から投球障害、関節リウマチなど各方面からの影響で症状が出現します。

詳細については、【番外編】PTが手指まで?肘部管・ギヨン管症候群の見方

こちらをご覧ください。

とにかくまずは…

・尺側手根屈筋が尺骨神経支配であるということ

・それは尺骨神経が尺側手根屈筋の上腕頭と尺骨頭で作る腱弓を通過しているからだということ

まずこの2点を抑えておいてほしいと思います。

特徴2 内側上顆炎との関係

ダウンロード (40) - コピー

画像引用(一部改変):Anatomography

尺側手根屈筋は肘関節内側に痛みを引き起こす”内側上顆炎”の一因だと考えられています。

まず先に”内側上顆炎”について簡単に解説していきます。

内側上顆炎とは…上腕骨内側上顆を起始とする肘関節屈筋群の過度な使用やオーバーワークを主な原因として肘関節内側に疼痛や炎症を引き起こす疾患の事です。

一般的には”ゴルフ肘”として知られていたりします。

この”内側上顆炎”を引き起こす肘関節屈筋群に尺側手根屈筋も含まれているわけです。

ちなみに尺側手根屈筋以外にも計5つの筋肉が”内側上顆炎”を引き起こす可能性がある筋肉だとして知られています。

その5つの筋肉とは…

・尺側手根屈筋

・長掌筋

・浅指屈筋

・円回内筋

・橈側手根屈筋

これらの筋肉になります。

よく反対側の”外側上顆炎”と比較して比べられることがありますが、大きな違いが2つ存在します。

①筋肉の種類の違い

②靭帯との繋がりの有無

この2点です。

簡単に説明すると…

・内側上顆炎 ⇒ 肘関節屈筋

・外側上顆炎 ⇒ 肘関節伸筋

最近では手関節の動きに大きく作用するものが”両上顆炎”に大きく関与していることが言われているため今回の尺側手根屈筋も”内側上顆炎”に大きく関与していると言われています。

そして2つ目に…

・内側上顆に付く筋肉 ⇒ 靭帯との繋がり(-)

・外側上顆に付く筋肉 ⇒ 靭帯との繋がり(+)

これによって言えることは…

・内側上顆炎 ⇒ 外側上顆炎に比べ治りやすい

・外側上顆炎 ⇒ 内側上顆炎に比べ治りにくい

靭帯にまで炎症などが蔓延すると痛みを発生する要因が増えるため”外側上顆炎”の方が予後が悪いと言われています。

特徴3 尺屈筋・掌屈筋としての機能

page1542

画像引用(一部改変):Anatomography

尺側手根屈筋は尺屈・掌屈ともにとても大きな役割を担っている。

これについて簡単に解説していきたいと思います。

まず尺屈運動に関して…

関与する筋肉は、尺側手根屈筋・尺側手根伸筋・小指伸筋が挙げられます。

その中で尺屈運動への貢献度を順位化すると…

1、尺側手根屈筋

2、尺側手根伸筋

3、小指伸筋

となります。

次に掌屈運動に関しては…

関与する筋肉は、尺側手根屈筋・橈側手根屈筋・長掌筋が挙げられます。

またこれを掌屈運動の貢献度から順位化すると…

1、尺側手根屈筋

2、橈側手根屈筋

3、長掌筋

となります。(1、2に関しては反対で記載されていることもあるようです)

ちなみに掌屈運動に関しては浅指屈筋・深指屈筋も関与し、とても大きな運動貢献度を示しますが、基本的には指の屈筋として機能しているため2次的要因だとも言われています。

どちらにしろ尺側手根屈筋は尺屈・掌屈の両方の運動において大きく貢献していることからその重要性がうかがえると思います。

是非、覚えておいてください。

 

まとめ

特徴1 前腕屈筋群内において唯一、尺骨神経に支配されている
特徴2 内側上顆炎を引き起こす一因である
特徴3 尺屈筋・掌屈筋ともに大きな役割を持っている

 

いかがだったでしょうか。

これを読んだら、”確かに尺側手根屈筋は尺骨神経だった!”とか思い出されるようなこともあったのではないかと思います。

是非、思い出すだけではなく、臨床での治療にも生かされればさらに嬉しく思います。

今回も最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。