長母指伸筋と言えば…

ん~母指の伸展はしてそう…とか

あとは…出てこない。。。とか

いきなり長母指伸筋について答えろと言われてもなかなか出てこないと思います。

そんな長母指伸筋ですが、聞いたら思い出すような特徴もあるんです!

そこで今回は長母指伸筋の基礎的な解剖学の復習からストレッチ方法、そして臨床で役立つ3つの特徴について解説していきます。

是非これを読んでハンドの治療に生かしてほしいと思います。

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長母指伸筋の解剖

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画像引用(一部改変):Anatomography

長母指伸筋(extensor policis longus)
起始 前腕骨間膜、尺側手根伸筋筋膜
停止 母指背側末節骨底
作用 母指伸展
神経支配 橈骨神経(C6~8)

 

長母指伸筋のストレッチ

※後日、掲載いたします。

 

長母指伸筋の特徴

特徴1 解剖学的嗅ぎタバコ窩との関係

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長母指伸筋と言えば…

短母指伸筋と構成する”解剖学的嗅ぎタバコ窩”について解説しなければいけません。

この”解剖学的嗅ぎタバコ窩”は別名、解剖学的スナフ・ボックスとも呼ばれ、その昔に火をつけず香りを楽しむタバコをしまっておく場所としてよく知られています。

そんな”解剖学的嗅ぎタバコ窩”を構成するのが今回メインとなる長母指伸筋と短母指伸筋になります。

ではなぜこの”解剖学的嗅ぎタバコ窩”を知っておく必要があるのか…

大体、2つ大きな理由があります。

①解剖学上の指標・ランドマークになるということ。

②”解剖学的嗅ぎタバコ窩”の解剖学的特徴があるということ。

それぞれ解説していきます。

 

まず①解剖学上の指標・ランドマークになるということから解説します。

”解剖学的嗅ぎタバコ窩”の構成は…

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・内側:短母指伸筋腱

・外側:長母指伸筋腱

・近位:橈骨茎状突起

・遠位:第1中手骨基部

このような構成になっている。

ということはこれがそのまま各指標・ランドマークになるということ。

これさえ覚えておけば、”解剖学的嗅ぎタバコ窩”を作った時にどこに何があるかが理解できると思います。

 

次に②”解剖学的嗅ぎタバコ窩”の解剖学的特徴についてです。

これは簡潔に伝えると…

”解剖学的嗅ぎタバコ窩”の浅層に橈骨動脈が走り、その直下には舟状骨があるということ。

一般的にこの舟状骨が骨折すると…

無腐性壊死を起こしやすいという特徴がある。

舟状骨自体は中央から遠位部にかけては血行が供給されているが、近位部は血行が供給されていないことからこのようなことが起こりやすいとされている。

また舟状骨骨折はレントゲンでも骨折線の発見が難しいとされているため、痛みが長引く時は注意が必要である。

ちなみに大体、骨癒合が得られる期間は6~12週が一般的であるとされている。

是非参考にしていただきたいと思います。

特徴2 長母指伸筋が通過する区画

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画像引用(一部改変):Anatomography

これは長母指伸筋が”解剖学的嗅ぎタバコ窩”を作る以前の話になります。

要するに手関節背側の伸筋支帯を通過する時の区画になります。

以前も【長母指外転筋】のページでご紹介しましたが今回、長母指外転筋と区画が異なるため再度解説したいと思います。

ちなみに先ほどから伝えている区画というのは全部で6区画存在します。

ではそれぞれすべてご紹介します。

・第1区画 ⇒ 長母指外転筋、短母指伸筋

・第2区画 ⇒ 短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋

・第3区画 ⇒ 長母指伸筋

・第4区画 ⇒ 示指伸筋、総指伸筋

・第5区画 ⇒ 小指伸筋

・第6区画 ⇒ 尺側手根伸筋

とこういう区画配置になっています。

ちなみに…

第1区画(母指側) ⇒ 第6区画(小指側)

となっています。

この長母指伸筋が通過する第3区画は他の区画にはない特徴があります。

それは伸筋支帯を通過後…

急峻に母指側に移動後、第2区画上方を交差するということ。

これは長母指伸筋がリスター結節を支点に腱の走行を変えていることが要因になっています。

”ドゥ・ケルバン病”のような病名自体はありませんが、上記のように急峻な腱走行の変化のため過度な母趾伸展強要が加わると”腱鞘炎”のような症状を起こす可能性は十分考えられます。

是非覚えておいてほしいと思います。

特徴3 前腕骨間膜との関係

ダウンロード (47)

画像引用(一部改変):Anatomography

骨間膜というと前腕と下腿にしかない特徴的な組織構造になっています。

長母指伸筋はこの骨間膜、前腕骨間膜に起始を持ちます。

それがどんな意味を持つかというと…

骨間膜の張力が長母指伸筋の筋出力に影響するということです。

大体の筋肉は”骨”に付着します。

そのためある程度の固定性があるため筋肉がしっかりと機能することができます。

しかし骨間膜という組織はその連続性が保たれていなかったり、張力が落ちてしまうとそこに付着する筋肉が最大のパフォーマンスを発揮できない可能性があります。

それが骨折などによって起こる事例があることを伝えておきたいと思います。

 

ここからは余談ですが…

前腕骨間膜は下腿骨間膜と比べ、自由度の点で大きな違いがあります。

一言で言えば…

・前腕骨間膜 ⇒ 回内・回外運動

・下腿骨間膜 ⇒ 運動なし

そのため前腕は骨間膜自体が運動制限因子にもなりえます

端的に言えば…前腕回外を制限します。

前腕骨間膜の性質上、前腕回外時に骨間膜が伸張される方向に引っ張られます。

そのため前腕の回外制限がある際は筋肉や関節・靭帯などの制限因子だけでなく、”骨間膜”という制限因子もあることを知っておいてほしいと思います。

 

まとめ

特徴1 解剖学的嗅ぎタバコ窩の構成因子
特徴2 長母指伸筋が走る区画は急峻な動きがある
特徴3 骨間膜は筋出力にも影響する

 

いかがだったでしょうか。

普段なかなか上肢疾患やハンドを診ない方にとってはあまりピンとこなかった内容かもしれません。

しかしいつか困った時に参考にしてほしいと思います。

部署変更でハンドを診る機会が出てくることもあるかもしれませんからね…

では今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。